脳研究は、遺伝子レベルから言語などの高次脳機能に至るまで、急速に発展してきた。こうした脳科学の進展において、医学(生理学・生化学・薬理学・解剖学などの基礎医学から脳外科・神経内科・精神科などの臨床医学まで)や理工学(物理学・化学・生物学・情報科学など)はもちろんのこと、心理学・哲学・言語学などの文系の分野にまでその境界領域が広がりつつある。研究室では「システム・ニューロサイエンス(Systems Neuroscience)」と呼ばれる脳科学の分野で、言語脳科学を中心とした最先端の研究を行っている。言語は、脳における最も高次の情報処理システムである。われわれが母語を用いて発話したり、他者の発話を理解したりするときには、「普遍文法」に基づく言語情報処理を、無意識のレベルでおこなっていると考えられる。普遍文法の計算原理が、実際に脳のどのようなシステムによって実現されているか、という究極の問題を解き明かしていきたい。
【人間を対象とする脳機能の解析】
核磁気共鳴現象に基づくMRI(磁気共鳴映像法)や、SQUID(超伝導干渉計)を用いたMEG(脳磁図)などの先端的物理計測技術を用いて、脳機能の計測と解析を進めている。顕微鏡の発明が細胞生物学を生みだし、遺伝子工学の技術が分子生物学の発展をもたらしたように、無侵襲的に脳機能を計測する技術こそが、言語脳科学の発展の鍵である。fMRI(functional MRI)は、現在もっとも有力な脳機能イメージングの技術の1つであり、繰り返し計測を行って再現性を確認できる。
【言語を中心とした高次脳機能のメカニズムの解明】
自然言語の文法性や普遍性・生得性といった高次脳機能を明らかにするための研究を進めている。実際の研究では、普遍文法の機能分化と機能局在を明らかにするための研究パラダイムを開発した上で、上記の手法を駆使して言語の脳機能イメージングを行う。将来的にはさらに神経回路網モデルの物理・工学的手法を融合させて、脳における言語情報処理の基本原理を明らかにしていきたいと考えている。