科学技術振興機構報 第21号
平成16年1月26日
埼玉県川口市本町4−1−8
独立行政法人 科学技術振興機構
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外国語習得も同じ「文法中枢」

〜中1英語で双生児に相関〜

 独立行政法人 科学技術振興機構(理事長:沖村憲樹)の戦略的創造研究推進事業の研究テーマ「脳の機能発達と学習メカニズムの解明」(研究代表者:酒井 邦嘉 東京大学大学院総合文化研究科 助教授)で進めている研究において、機能的磁気共鳴映像法(fMRI)の実験から、英語の授業で脳の「文法中枢」の機能が変わることを初めて直接的に証明した。この脳機能の変化は、中学1年生の双生児で高い相関を示した。このことは、授業の教育効果の定着には、双生児が共有する遺伝と環境の要因が深く関与することを示唆している。この研究成果は、語学教育の改善や言語の獲得機構の解明につながる可能性がある。本成果は、同大学教育学部附属中等教育学校の双生児研究委員会と共に得られたもので、平成16年発行の米国科学雑誌「Cerebral Cortex(大脳皮質)」で発表される。
<研究概要>
 脳科学の進歩に伴い、人間の脳の活動を画像として捉える機能イメージングの手法を用いて、心のさまざまな機能の座が、脳のどこにあるかを調べられるようになってきた。しかし、言語などの高次機能の脳における発達メカニズムはまだ全くわかっていない。本研究は、第二言語である英語の習得過程に注目して、英語の文法知識がどのようにして定着していくのかという疑問に対し、当チームが平成14年に報告した「文法中枢」の機能変化として客観的に答えようとするもので、学校の授業における脳の発達過程を明らかにした発見は、世界で初めてである。

 本研究では、第二言語の授業法の検討に役立てることを目標とし、英語の習得過程を脳活動の変化として捉えるために次のような調査を行った。附属中等教育学校の中学1年生の全生徒に対し、英語のヒアリング能力と文法運用能力の向上を促すトレーニングを2ヶ月間の授業時間に実施した。授業を受けた全生徒の中に含まれる双生児に対して、トレーニングの前後における脳活動の変化をfMRIによって計測した。
 その結果、英語の成績(動詞の過去形のテスト)の向上に比例して、左脳の前頭前野(ブローカ野)に活動の増加が見られ、また、この活動変化は中学1年生の双生児で高い相関を示した。この脳の場所は「文法中枢」の一部であり、日本語による同様の課題で見られた活動の場所と一致する。大人での研究報告はまだないが、少なくとも中学1年生では、英語が上達すると、日本語を使うときに活性化した脳の場所と同じ場所が活性化すると考えられる。

 このように、実践的な教育効果が個人の脳の学習による変化として、科学的にそして視覚的に捉えられたことは、意義深い。従来、授業の教育効果を測定・評価するときには、生徒を実験群(その授業を行うグループ)と対照群(その授業を行わないグループ)とに分け、その授業の前後で行う「確認テスト」の得点を統計的な計算(分散分析)によって分析するという手法が用いられてきた。しかし、統計的な手法では集団全体の教育効果を評価することはできるが、生徒個人の教育効果を直接的に測定することはできない。今回のfMRIを用いた方法は、個人の教育効果を直接的に測定する可能性を示すものとして、これからの教育の評価の方法やあり方に非常に大きな影響を与える可能性がある。さらに、研究のために特殊なトレーニングを実施するのではなく、日常の学習活動をトレーニングと位置づけて研究の対象とした本成果は、科学研究と学校教育の連携によって初めて可能になったもので、学校教育を対象とする世界初の脳研究である。今後、この先駆的な研究成果が突破口になって、言語の獲得機構の解明が進み、語学教育の改善につながることが期待される。
<補足説明>
参照
<発表論文題名>
"Correlated Functional Changes of the Prefrontal Cortex in Twins Induced by Classroom Education of Second Language"
「第二言語の授業で引き起こされる双生児間で相関した前頭前野皮質の機能的変化」
<著者名>
酒井邦嘉・三浦邦彦・楢府暢子・村石幸正(酒井以外は附属中等教育学校教諭)
 
この研究テーマが含まれる研究領域、研究期間は以下の通りである。
研究領域: 脳の機能発達と学習メカニズムの解明(研究統括:津本忠治 大阪大学)
研究期間: 平成15年度〜平成20年度
補足説明
図1 英語と日本語による動詞のマッチング課題と過去形課題。
図2 英語の過去形課題に選択的なトレーニング後の脳活動。
図3 日本語の過去形課題に選択的な脳活動。
図4 英語の過去形課題においてブローカ野の活動変化が示す、双生児のペア間での相関。
図5 英語の成績の向上に比例したブローカ野における活動増加。
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 本件問い合わせ先:
酒井 邦嘉(さかい くによし)
東京大学大学院総合文化研究科 広域科学専攻
〒153-8902 東京都目黒区駒場3-8-1
森本 茂雄(もりもと しげお)
独立行政法人 科学技術振興機構
戦略的創造事業本部 研究推進部 研究第一課
〒332-0012 埼玉県川口市本町4-1-8川口センタービル
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