ロボット工学セミナーのご案内
主 催:(社)日本ロボット学会
協 賛:計測自動制御学会,精密工学会,電気学会,電子情報通信学会,土木学会,日本機械学会,日本ロボット工業会,農業機械学会,自動化推進協会,バイオメカニズム学会,応用物理学会,産業技術連携推進会議 機械・金属部会/福祉技術部会,機械技術協会,日本神経回路学会,日本時計学会,システム制御情報学会,情報処理学会,人工知能学会,日本人間工学会,日本バーチャルリアリティ学会

35回シンポジウム
脳型情報処理入門


日 時:

2006年4月25日 (火)  9:35〜16:40

会 場:

東京大学 山上会館 大会議室

           東京都文京区本郷7-3-1 東京大学本郷キャンパス

           (東京メトロ丸の内線本郷三丁目駅下車10分)

アクセス:http://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/cam01_00_02_j.html

地図:http://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/map01_02_j.html

定 員:

90名 (定員になり次第締め切ります)

参加費:

会員/協賛学会員8,000円,学生(一律) 4,000円,会員外 12,000円 (税込)

口 上:

 生物の脳に学んだ情報処理技術をロボットの知能として実装する試みが長年にわたって行われています.しかし,現状では脳の機能のごく一部を,それも個別に実現できたにすぎず,生物の脳のように多様で高度な能力を持つ脳型情報処理システムの実現には大きな壁が立ちはだかっています.本セミナーでは,さまざまなアプローチでヒトの脳の機能を解析・モデル化する最先端の研究をされている先生方をお招きして,普段ロボット関係の学会では聞けない貴重なお話をしていただきます.

岡田真人先生,大津展之先生には,神経回路のダイナミクスやパターン認識を数理モデルとして表現し,実装するための基礎的な手法とその応用について解説していただきます.複雑な脳の機能をモデル化するには不可欠な数学のバックグラウンドについて,わかりやすくお話しいただけるものと期待しています.

また,深井朋樹先生,大須理英子先生,酒井邦嘉先生には,神経回路の構造,運動制御,言語情報処理について,生理実験を通して得られた最新の知見をご紹介いただきます.純粋に科学的な興味をかきたてられるのはもちろんですが,ロボットへの応用を考えても示唆に富んだお話になりそうです.

新年度にふさわしく「入門」と題してはいますが,これから脳型情報処理を研究に導入しようと考えている方,基礎を復習したい方だけでなく,すでに長年関連する研究をしている方にとっても,研究を進める上でのヒントになれば幸いです.

オーガナイザ:山根 克 (東京大学)

 

9:35〜9:45

<開会挨拶・講師紹介>

9:45〜10:45

1話  スパイキングニューロンのアナログ縮約とロボット工学

 

東京大学 大学院新領域創成科学研究科  岡田 真人

 

 脳の中にある多数のニューロンがスパイクと呼ばれる活動電位で情報交換することで,我々は知覚,認識,運動制御などの高度な情報処理を行っている.一方,脳科学の知見をロボット工学に応用する場合,スパイクの発射確率を表現するアナログモデルを素子とする神経回路モデルを利用することが多い.本講演では,スパイク表現からアナログ表現を導出する数理的手続きであるアナログ縮約を概説する.その過程で,従来ロボット工学で用いられてきたリカレント型の神経回路モデルの問題点を指摘する.またアナログ縮約の観点から,スパイキングニューロンモデルの計算能力がアナログモデルの計算能力をどのように凌駕するかを述べる.

http://mns.k.u-tokyo.ac.jp/

11:00〜12:00

2話  パターン認識の基礎と応用

 

産業技術総合研究所/東京大学  大津 展之

 

 人や動物は,経験を通して実世界の多様で膨大な情報を類型的なパターンとして概念に対応づけて認識し,それらの関係を知識として要約し学習することによって,さまざまな状況に対して柔軟に対処していくことができる.パターン認識は,脳の持つそのような高度で柔軟な情報処理の基盤をなすものであり,ロボットなど実環境で稼動する知的システム構築の鍵となる.本講演では,そのための基礎として,確率統計的手法や多変量解析手法などを用いた情報数理的な立場から,パターン認識(特に視覚)の原理的な枠組みや具体的な手法,そして新しい応用事例について,分かりやすく解説する.

http://www.isi.imi.i.u-tokyo.ac.jp/

12:00〜13:00

<休憩(昼)>

13:00〜14:00

3話  神経回路の解剖学とモデリング

 

理化学研究所 脳科学総合研究センター 深井 朋樹

 

 大脳皮質の局所神経回路は6層のカラム構造をもち,そのおおまかな構造は視覚野,聴覚野といった情報処理のモダリティにあまり依らないことが良く知られている.しかしこのカラム構造によって何がどのように計算されているのかは,実はまだよくわかっていない.しかし最近,さまざまな生理実験の結果から,2/3層を中心にした皮質上層部と5/6層を中心にした皮質深層部では,局所神経回路の構造や神経回路のダイナミクス,あるいは情報表現などが異なる可能性が示唆されている.そこでこのような実験の結果やそれを理解するための理論的試みを紹介しながら,そこから垣間見えてくる脳の情報処理の様相について考えてみたい.

           

14:15〜15:15 

4話  ヒトの運動制御

 

国際電気通信基礎技術研究所 脳情報研究所  大須 理英子

 

 生体は,非線形性・ノイズ・時間遅れなどの難点をもつ制御対象を,限られた資源と学習時間で的確に制御することができる.しかも,同じ制御対象を用いて多くの課題をこなす.生体とロボットの運動制御の違いはこのような点にあると考えられる.生体における運動制御の実装法として,現在二つの仮説が対立している.一つは運動軌道を事前に計画せず,時々刻々利用できるすべての情報を使って最適な運動指令を生成するという考え方で,実現には資源と学習時間が必要である.もう一つは問題を分割して階層的に解くという考え方で,最適性を犠牲にするが資源と時間を節約する.生体の運動制御モデルとしてどちらが適しているかを議論する.

http://www.cns.atr.jp/dcn

15:30〜16:30

5話  脳の言語情報処理

 

東京大学 大学院総合文化研究科 酒井 邦嘉

 

 自然言語に規則があるのは,人間が規則的に言語を作ったためではなく,言語が自然法則に従っているためである.「人間に特有な言語能力は,脳の生得的な性質に由来する」と半世紀にわたって主張してきたのは,言語学者のノーム・チョムスキーであった.しかし,生得説を裏付けるための証拠が未だ不十分なため,チョムスキーの革命的な考えは,多くの誤解と批判にさらされてきた.言語の脳機能の分析は,実験の積み重ねとMRI技術などの向上によって,飛躍的な進歩を遂げている.講演では,脳の言語情報処理に関して最近得られた知見を紹介し,再帰的計算の役割や言語のモジュール構造について議論したい.(参考:『言語の脳科学』中公新書,2002年)

http://mind.c.u-tokyo.ac.jp/

16:30〜16:40

<閉会挨拶>