取材日記vol.04

NHK教育「サイエンス・アイ」 10月7日放送

取材日:7月17・19日

場所:東京大学総合文化研究科

 

脳が言葉を理解する
仕組みを探る

 人間は言葉を理解し、自由に操ることができます。それを指示しているのは私たちそれぞれの脳。
 私たちの頭の中はどのように働いているのか…? 今回の取材では、言葉を理解する仕組みを科学的に探る研究をされている、東京大学総合文化研究科の酒井邦嘉(さかい くによし)さんを訪ねました。
 


言葉を理解するとは…?

 言葉を理解するには、一つ一つの単語の意味がわかるだけでは不十分。文の構造がどうなっているのか、つまり文法を理解することが重要です。

 では、脳のどの部分で、文法を理解する働きが行われているのでしょうか。

最新の研究方法 

 これまでは失語症の研究などから、脳の中で言葉の理解に深い関わりのある場所が大まかにわかっていましたが、現在では健康な人の脳を傷つけることなく調べることができるようになり、より詳しいことがわかってきました。

  1. MRI

     よく病院の検診など使う、磁場を発生させて血液の流れを測定する装置。
     脳の活動部位を非常に細かく画像で知ることができます。
     その結果、脳のブローカ野と呼ばれる、前頭葉の後ろ側にあたる場所の活動が言葉の理解の際にとびぬけて盛んになることわかったそうです。
     つまり、文法処理には脳の中のブローカ野が深く関わっているのです。

  2. 光トポグラフィー

     頭の表面から近赤外線を当てることによって脳の血液の流れを計測する装置。
     ヘッドフォンをつけ、簡単な文章の繰り返し(例.「いいお天気ですね、いいお天気ですね…」)と物語(今回は「セロ弾きのゴーシュ」の1節)の2種類を繰り返し聞き、血液の流れ脳の活動を比べます。
     結果、言語野のウエルニッケ野と呼ばれる部分の活動量に違いが出ました。
     繰り返しの文章を聞いたときは物語のときのほぼ半分しか活動していなかったのです。
     つまり、言語能力が十分に発達した大人の脳は、文章が繰り返しに過ぎないと判断すると、処理する活動を節約しているかもしれないという可能性があるのです。

頭に装置取付中!

毛髪を避けて頭皮にコードを当てなくてはならず、装着には結構な時間がかかりました。
妙な似合いかたをしているとはスタッフ評。

  人間の心の研究へ

 「読む、聞く、書く、話す」の4つが脳の中でどういう風に実現するのか詳しく調べると、最終的には、言語の獲得、発達、どうして言葉が人に生まれるのかというところがわかってくる。そうすれば、例えば、成長の過程でいつ頃英語を習得すればバイリンガルになれる、なんてことも把握できるのです。これからの教育も変わるかもしれません。
 でも先生はそんな小さなことに着目するだけではありません。

 「そういうところが調べられれば、より人間が持っている言葉というものの役割、その重要性がわかってくる。」

 つまり、言語の研究は人間の心を探ることに他ならないのです。


 酒井さんの研究室で目についたのは写真。
 ひとつは、星野道夫さんのシロクマなどの作品。
 そしてもうひとつは、チョムスキーやアインシュタインなどの研究者の写真。
 あんまり研究者の方が他の研究者の写真を飾るということはないと思うのですが、酒井さんはいちばん目立つ、デスクの真正面と本棚に飾られていました。なんかイイですよね。素直に尊敬している気持ちが表れていて。
 また、プライベートではご自身で写真撮影もなさるそうで、番組撮影終了後はNHKのカメラを覗いてズームをしては感嘆の声をあげておられました(笑)。


 
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